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このページでは音楽制作エンジニア、葛巻善郎日々の出来事をつづります。

Urban Sound Cruise

夏といえば A.O.R. そしてフュージョン、という方にこの夏、そして来年以降もお薦めの素晴らしいコンピ盤がランブリング・レコーズから出ました。 僕がマスタリングをしています。

ランブリング・レコーズ

http://www.rambling.ne.jp/

昨年夏の情熱的ピアノ・コンピ「On Fire」に続いて、タワー・レコードのMさんとOさん、そしてランブリング・レコーズのMさんで企画されたこのコンピ、今回もまた素晴らしい選曲です。 「メジャーからインディーまで、ここまで数多くのレーベルの音源が収録されたコンピは後にも先にもあり得ない!」というキャッチコピーにも文句なく納得できる選曲・曲順はタワー・レコードのMさんが学生時代に先輩から借りて聴いていた自作カセット「素晴らしきフュージョンの世界」が基になっているそうです(^_^;) 大人になった今、オフィシャルな形でCDの制作に関わった、という夢のような素敵なお話しですね。

花想ひ

6月

Welina 〜祈りとともに〜

たたえつくせなき

Japan Fire 5

5月

Voyage

金沢出張

4月

Make Us One

がんばろう、日本!

3月

Vintage Aural Exciter

KAREN ROCKS

新しいリヴァーブ

Wild Frontier

さて今回のマスタリング、ランブリング・レコーズが各社からライセンスを受け、供給してもらった音源からマスタリングしているのですが、当然それは既にリリースされているCDです。 各曲のオリジナルのリリースは70年代後半から80年代のいわゆるフュージョン黄金期、しかし供給された音源は90年代以降にリマスタリングされたCDが多く、この場合リマスタリングの時期によって音圧の感じ方が大きく異なります。 それをなるべく違和感なく聴けるように仕上げていくわけですが、まずはマスタリング前の仕込み、僕の著作「マスタリングの全知識」に書いているのとまったく同じやり方です。 曲順に並べて 24bit, 96kHz のセッションに取り込み、api 3124+ → JOEMEEK SC4 → t.c. electronic Finalizer 96K と通して 192 I/O に戻し、さらに PSP Vintage Warmer をかけて録音します。 下の写真上段がCDから取り込んだだけの状態、下段が各アウトボードと Vintage Warmer を通して録音したファイルです(クリックすると拡大します)。 波形を見ればわかる通り、音量と音圧が曲によってバラバラなので、通常はヴォリュームの調整だけにするところを、甘いマスタリングの曲 (M03.04 など波形に余裕があるもの) はさらに EMI TG 12413 Limiter (もちろん1969ヴァージョン) をかけています。 下段の波形では概ね音圧が整い、各曲のピークも -6.0db 前後に揃えられているのがわかると思います。

続いてマスタリングの本行程、これもマスタリング本で書いているのと同じことをしていますが、使うプラグインはやや変化していて Massey Plug-ins L2007 や Slate Digital FG-X などを使うようになりました。 上段が Audio チャンネル、下段が Master チャンネルと、2ch だけなのにわざわざ Master チャンネルを使っているところがミソ、さらに 上段の bx_control に挟まれている7つのプラグインは全て MS に分けて処理しています。 Slate Digital Virtual Console、URS 1970 Comp、DAD Valve、Abbey Road RS135 は各曲同じ設定、PuigTech EQP1A、MEQ5 、そして L2007 は曲ごとに設定を少しずつ変えています (それぞれ低音の膨らみ、中低音の抜き、スレッショルド)。 そして Master チャンネルには bx_dyn EQ を通してから最後に Slate Digital FG-X、ここでは GAIN、Lo-Punch、Detail のパラメーターを曲ごとに多少エディットしています。

今回のマスタリングで意識したのはコンピ盤としての統一感はもちろん、豪華なラインナップによる最高のサウンドの演出、特に中低音の充実です。 主に80年代の音源はデジタル機材初期の影響で若干ショボいサウンドでマスターになっていることが多いのですが、楽器やプリアンプなどでいまだにヴィンテージ機材がもてはやされているように、録音やミックスをした時点では音痩せしていたはずはないのです。 なのでスタジオでミックスしたばかりの熱い感じをイメージできるように仕上げました。 さらに、フュージョン系のベーシストはどちらかというと重低音ではなく高音域寄りのプレイをしますが、とは言いつつもリスナー側は重低音サウンドを期待している人も多いはずなので、元のミックスよりも少し重低音を充実させています。 結果的には全ての帯域が気持ち良く、そしてまたどんなスピーカーで聴いても圧縮しても気持ち良いはずです。

そうやって仕上がった最終的な 16bit, 44.1kHz の WAV ファイル、今年からは Steinberg WaveLab 7 で DDP マスターを作っています。 下の写真が WaveLab 7 の画面、ここでは音量の微調整を 0.1db 単位でするくらいで、DDP の書き出し時は「マスター・セクションを無視」を選びます。 DDP は CD-R や CD ライターの質、さらにはプレス工場のグレードなどをほとんど問わない、ということがいくつかの検証によってわかりました。 PMCD に比べ、効率的かつ平等な規格だと思います。

内容にも少し触れておきましょう。 オープニングは Lee Ritenour「Rio Funk」、以下 Dave Grusin「Rag-Bag 」、Jorge Dalto「Hotel Du Globe」、Larry Carlton「Rio Samba」と続いて5曲目にまさかの Jeff Beck「Head For The Backstage Pass」、さらに Fuse One、向井滋春、John Tropea、dave valentin、French Toast、渡辺香津美、Super Funky Sax、Koinonia と続きます。 そしてトリは Greg Mathieson Project「Baked Potato Super Live!」から「Goe」、なんという素晴らしい選曲、そして曲順でしょうか(^_^;)
MさんとOさんによる愛情たっぷりの曲目解説、そして各曲の正確な参加メンバーのクレジットが嬉しいです。 ドラマーは僕が敬愛してやまない Jeff Porcaro (2曲)を始め、Steve Gadd、Harvey Mason、Omar Hakim、Rick Marotta、David Weckl、Steve Jordan、ベーシストは Marcus Miller (オープニング曲含め4曲)、Anthony Jackson、Abraham Laboriel、Stanley Clarke、Will Lee、キーボーディストは Dave Grusin、Jorge Dalto、Greg Mathieson、Max Middleton、Richard Tee、Michel Camilo、Kenny Kirkland とどこまでも豪華です。 それでいてお値段 ¥2,100 となんともリーズナブルです。


僕はマスタリングというものが世間で注目されるよりも少し前からこの仕事を始め、紙ジャケやリイシュー・ブームだった数年前には年間300枚近くマスタリングしてきました。 それを知っているMさんとOさん、そしてランブリングのMさんは快く音に関しては任せてくれました。 ここ1〜2年でさらに進化した Pro Tools や各プラグインを使いこなし、最高のコンピ盤が出来たと思います。 各曲を元のCDと比較するとだいぶ違うはずですが、例えばこのCDを聴いて好きになった人がそれぞれのアーチストのCDを買って聴いてみた時にはそんなに違和感なく聴ける、そこまで考えてマスタリングしています。

リゾート地へと向かう車で大音量で聴くと最高に気持ち良いと思いますよ、ぜひ聴いてください!