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このページでは音楽制作エンジニア、葛巻善郎日々の出来事をつづります。

Voyage

青木カレンさん6枚目のアルバム「Voyage」がランブリング・レコーズよりリリースされました。 僕はマスタリングをしています。

青木カレン

http://www.rambling.ne.jp/artist/karen/

今までのカレンさんのアルバムは曲ごとのコラボレーションというスタイルでした。 前作「By My Side」からアルバムまるごと一人のプロデューサーが担当するスタイルとなり、そして今作はその進化形とも言えるスタイルをとっています。 ヒット・メイカー今井了介さん、そして次世代を担うギタリスト渥美幸裕くんとの三つ巴なのです。 曲によって今井チーム・渥美チームに分かれての制作になっていて、アルバム全体のプロデュースは今井さんが担当しています。
収録曲はカヴァー曲を中心としつつ、カレンさんのオリジナルも4曲収録されています。 カヴァー曲はレディ・ガガ「Poker Face」、スティング「English Man in NY」、フィル・コリンズ「Another Day in Paradise」、そして Queen「We will Rock You」、スタンダードの「I've Got You Under My Skin」「You Gotta Be」「Skindo-Le-Le」といった具合に今まで以上にボーダーレスな選曲となっています。

金沢出張

4月

Make Us One

がんばろう、日本!

3月

Vintage Aural Exciter

KAREN ROCKS

新しいリヴァーブ

Wild Frontier

2月

西海岸 AOR コネクション

機材周りの大掃除

1月

謹賀新年

プレイバック 2010 - 10月〜12月

プレイバック 2010 - 8月〜9月

そんなわけで、いろんなスタイルの曲があり、オケも打ち込みメイン、ジャズ・バンド、打ち込みと生楽器のハイブリッドな融合、さらにはギターのみの曲もあったりということで、やはりマスタリングはたいへんでした。 いつものように先にミックス済みのデータをもらい、api 3124+、JOEMEEK SC4 といったアウトボードと PSP Vintage Warmer などをかけながらある程度音量を揃えるところまでは一人で仕込みます。 マスタリングには今井さん、渥美くん、そして今井チームからレコーディングとミックスを担当したエンジニアさんが2人、そしてカレンさんとランブリングのNさんが来訪、総勢6名で臨みました。

通常アルバムのマスタリングには4〜6時間程度かかります。 今回は1曲ずつがまったく違った形態なのである程度時間がかかるだろうとは思っていましたが、なんと12時間以上、翌日の朝までかかりました。
マスタリング済みのデータを各自持って帰り、必要があれば少し修正していく、というところまでは今までもよくありました。 しかし今回は皆さんが最善を尽くすという言葉通り、ヴォーカルのバランスを替えたミックスで再度マスタリングをしたり、はたまたミックスをやり直したり、さらには曲の途中でプラグインの設定を動かしてみたり、と様々な修正を何度もしていきました。 修正はリクエストに基づいて僕が一人で行い、アップロードして確認してもらいつつ、ようやく全曲がまとまってきて再びカレンさんとNさん、そして来れる人は来てください、ということにしていたのが3月11日だったのです。 夕方スタートだったので14時46分をそれぞれの環境で迎え、もちろんその日に集まることはできませんでした。 とりあえず作業どころではないので一旦様子を見つつ、連絡を取り合おうということになりましたが、その日は携帯もなかなか繋がらず、そして翌週からは輪番停電を始めとする混乱の日々が続いていきました。 CD のプレス工場がいくつか被災したこともあり、また状況的にそんな場合ではないということで、その日からしばらくは CD のリリースやライヴ・イベントなどは延期や中止ということになっていきます。 このアルバムもリリースを遅らせることになり、何曲かはさらに修正をしていこう、ということになりました。 前の日記にも書いたように、この時期今までと同じ感覚で仕事をする気にはなれず、ゆっくりと修正を重ねていたのですが、一人でここ Studio CMpunch で作業している時に余震が起きると、とてつもなく不安になったものです。 そんな時カレンさんやNさんから電話が来たりする度にホッとして、それによって何とかモチベーションを保つことができたのです。

そんなことをしていきながら完成していったこのアルバム、いろいろなマスタリング・テクニックを使っています。 オープニングであり一押しトラックでもある「Skindo-Le-Le」はまったくマスタリングをせず、「English Man in NY」では L3 の調整による音圧のコントロールのみだったりもしますが、曲中でプラグインのオートメーションを書いたり、音量・音圧の微調整を細かくしたり、自分のスキルを最大限投入した「21世紀のマスタリング」と言えると思います。

カレンさんやランブリングとは元々良いお付き合いをしていましたが、この時期一緒に過ごすことにより、さらに「チーム感」が深まったと思います。 このアルバムのことは一生忘れないでしょう。

最近ではアップロードしたデータで確認するということも増え、ファイル名は単純に曲名だけでなく、_110315 というように作業した日付がわかるようにすることが多いです。 しかし僕の場合は最終ファイルもしくはフォルダには「Final」と付けたいのです。 今回何度もアップロードによる重ね、これで終わりだろうという最終ファイルは「Mastered Final」というフォルダに入れてアップしました。 しかしながら、凝り性のカレンさんからもし可能ならもう1ヶ所、ほんとに細かいんだけど直してほしい、という連絡が入り、結局そのフォルダは Final ではなくなってしまい、最後の最後にもう一つフォルダを作りました。 アルバム・タイトルをアレンジし、そのフォルダ名は「Long Voyage」にしました。


「Voyage」、素敵なアルバムです。 ぜひ聴いてください。