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このページでは音楽制作エンジニア、葛巻善郎日々の出来事をつづります。

うたのゆくさき

埼玉県を拠点に活動する女声合唱団 Brilliant Harmony の新しいCD「うたのゆくさき」がリリースされました。 何度かこの日記でも紹介していますが、僕はレコーディングからマスタリングまで、全てのエンジニアリングを担当しています。

Brilliant Harmony

http://brilliantharmony.com/

今までの Brilliant Harmony のCDが演奏会の録音を集めたライヴCDであったのに対して、4つの組曲からなるこのCDの大きな特徴はこのCDのためのレコーディングを行っている、ということです。 宗教曲である「悔悛と歓喜」は5月に クレアこうのす で録音、「花冷えのあとで」は6月に川口リリア・ホールで行った定期演奏会のライヴ録音、「湖国うた紀行」「ルロイ・アンダーソン・セレクション」は昨年冬にスタジオで録音、と環境の違う3ヶ所でのレコーディング、そして収録時期も最大7ヶ月離れています。

昨年冬に行ったスタジオ録音の様子は僕の著作「レコーディングの教科書」に詳しく書かれています。 本来よく響く教会やホールで録音すべき合唱を、ほとんど響かない普通のスタジオで録る、これは団にとっても、僕にとってもチャレンジングな録音でした。 そして、この録音のことを考えている時に、「レコーディングの教科書」の内容などもいろいろ具体的になってきたのでした。 ここでのポイントはスタジオの壁に向けて設置したアンビエンス・マイクの音をさらにダブらせて、それぞれに違うコンプとリヴァーブをかけ、いろいろな響きをミックスの時に作り出した、ということです。 自画自賛になりますが、このミックス、個人的にはかなり気に入ってます (^_^;) そして、この時の音源を、CDのリリースよりも早く「レコーディングの教科書」で使わせていただきました、ありがとうございます!
クレアこうのす はホールが2つあり、どちらを使うかかなり悩んだ末に大ホールで反響板を設置して録っています。 この様子は5月の日記に詳しく記しています。 パート別にコンデンサー・マイクを1本ずつ立て、さらに指揮者後方に真空管マイクをペアで立て、さらに会館の吊りマイクも使用、とこのセクションが一番録音トラック数が多く全部で8チャンネル使ってます。

煩悩 108

Aoyama Folk Ways

9月

A STAR LIGHT IN MY LIFE

Decapitator

8月

Japan Fire 4

天国のような霧

Speak Louder !!

大掃除

7月

音響のアルチザン

レコーディングの教科書

ALL-TECH 9063B EQ

バラとひまわり

6月

そしてここでは6月に行った定期演奏会での録音の様子を簡単に書きます。 Brilliant Harmony は毎年この時期に川口リリア・音楽ホールで定期演奏会を行っているので、いわば本拠地のようなホール、キャパ 600 の中ホールで写真左下にあるようにパイプ・オルガンも設置されています。
演奏会の録音なので、パート別のマイクなどはもちろん使わず、ホール常設の吊りマイク、Neumann SM-69 のみで録っています。 音楽ホールでの録音の場合、舞台下手脇のところに機材を設置するのですが、写真右下がその時の機材ラックの背面を撮ったものです。 ちょっとわかりづらいかもしれませんが、このように電源ケーブル同士、それから電源ケーブルとマイク・ケーブルが重ならないように工夫するのです。 この差はその場でわかるほど大きいものではないのですが、こういった録音時の工夫が後々で役に立つのです。

吊りマイクのみの録音ですが、その後ディレイとリヴァーブを加えるミックス作業をしています。
録音はスタジオの時のみ 24bit, 48kHz、ホールでの収録は 24bit, 96kHz で行い、ミックスは全て 96kHz で行っています。

と、このように録音環境の異なる3種類の音源を、それなりに違和感なく1枚のCDに収めるために、ある程度理想の音像というものを自分の頭の中に作り、その音に近づけるようにミックスしていきました。 録音後の作業はゆっくりできるのかと思いきや、8月からのカナダ・ツアーに持って行きたい、とのことでわりと急ぎ進行、しかし結果的にはこれが良かったのかもしれません、工程の最後の方では団長にも連日 Studio CMpunch に来てもらい、一気に仕上げることができました。

録音のことばかり書いてきましたが、CDの中身ももちろん素晴らしいです。 全て常任指揮者 松下耕さんのペンによる曲であり、「悔悛と歓喜」はミサ曲、「花冷えのあとで」はピアノ伴奏によるスタンダードな合唱曲、「湖国うた紀行」「ルロイ・アンダーソン・セレクション」はそれぞれ日本の民謡とアメリカン・ポップスをアレンジ、というように内容もバラエティに富んでいます (「花冷えのあとで」以外はア・カペラ)。 それぞれの曲を見事に解釈した合唱、僕は全ての録音の現場にいたので、その素晴らしい演奏のパワーをミックス以降で落とすことのないよう、作っていきました。

「レコーディングの教科書」でも詳しく書いていますが、Brilliant Harmony の団長さんは僕の尚美学園時代の後輩、そして指揮者 松下耕さんにも学生時代とてもお世話になっていました。 つまり尚美ファミリーとも言えるわけですが、最高のチーム・ワークによって素晴らしいCDができました。 僕にとっても代表作と自信を持って言える作品です。


エンドウ図案工場のエンドコさんによるアート・ワークもまた素敵ですよ、ぜひ聴いてください!