★ welcome to this page daisy <kuzumaki.net

このページでは音楽制作エンジニア、葛巻善郎日々の出来事をつづります。

ショパンに恋して

生誕200周年の今年はいろいろな作品がリリースされていますが、ショパンの名曲をくつろぎのクワイエット・ジャズ・ピアノでアレンジした素敵なアルバム、ジェイコブ・コーラーの「ショパンに恋して」がオーマガトキからリリースされました。 僕がレコーディングからマスタリングまでやっています。

オーマガトキ

http://omagatoki.com/

ジェイコブは今年30歳になる新進気鋭のアメリカ人ピアニスト、近年は日本に活動の拠点を移し、TOKU さんのサポートや加護亜依さんのジャズ・スタンダード・プロジェクトのバンマスなどを務めています。
録音は今年2月末、池袋の Studio Dede で行いました。 このスタジオは初めて行きましたが、約22畳のメイン・ブースの他にドラム・ブースとベース・ブースがあり、今回のようなピアノ・トリオを録るには最適な作りになっています。 僕は基本的にほとんど全ての機材を持ち込むのでスタジオで借りるのはマイクを数本くらいですが、ここにはこだわりのヴィンテージ機材もたくさんありました。

5月

You've Got a Friend

レコーディ ング本

With You

Now Here I Am

Conforto

4月

新しいプラグイン2つ

スペース・ロック・ファンタジー

キャラメル・マキアート

PSP sQuad

3月

The EDDIE KRAMER Modeling

アメリカ人の英国詣

TOKYO SESSIONS 1989

BBE Sound Sonic Sweet

2月から4月にかけて僕のレコーディング本のための収録がいくつかあり、audio-technica さんのご厚意でマイクをいくつか借りていたので、この時期に行ったレコーディングでは通常よりもマイクを多めに使っています。 まず写真左下がジェイコブのピアノのマイキング、写っている3本のマイクはどれもこの春から日本でも発売になった最新のマイクです。 両端は注目のリボン・マイク AT4080、そして真ん中が AT4050ST、そうこれは愛用者も多い素晴らしいコンデンサー・マイク AT4050 のステレオ版なのです。 カプセルが前と左右に向けて配置されており、MS 出力もしくはマイク内で変換されたステレオ出力(90°と120°の2系統) が選べるという興味深い作りになっています。 リボン・マイクもまさに現代のリボン、という作りになっていて、高音圧にも耐えられるのでドラムにも使えます。 音色はリボン特有の高域が滑らかに落ちて、という感じではなく、高音がきつくないコンデンサー、といった印象です。
そして写真右下がピアノのアンビエンス・マイク、両端が U87Ai、内側の2本が SONY の真空管マイク CU1-2 です。 ピアノだけで計8チャンネルですね、写真をクリックするとちょっと拡大します。

続いてドラマー 二本松 義史さんへのマイキング、スネア上下にも AT4080 を使っています。 曾我泰久さんのバンド録りの時もこのリボンをスネアに試しましたが、どちらかというと今回のようなアコースティック系に合うようです。 ハイハットには MEARI 319-A8 を使い、Reflection Filter で覆っています。 こうすることによってアンビエンス・マイクと明確に差別化した音で録れるわけです。 オーヴァー・ヘッドにはいつも使っている RODE のステレオ・マイク NT-4 ではなく AT4050ST を使いました。 このステレオ・マイクはいろいろな素材に試してみましたがオーヴァー・ヘッドに使った時が一番好印象でした。 ジャズ・セットなのでバスドラムに穴は開いてなく、いつも使う Audix D-6 ではなく AT4081(4080 の細いタイプ) と Subkick で録り、アンビエンス・マイクには AKG C414 を使い、例によって壁の方に向けて録っています。

続いてベーシスト 高道 晴久 さんへのマイキング、個別のブースなのでラインは使わずマイクのみ、AKG C414 と audio-technica の真空管マイク AT4060 の2本で録っています。 このように複数のマイクを使うのが僕の最近のブーム、当然違ったキャラクターの音でそれぞれ録れるわけですが、これらをブレンドして音を作っていく方が EQ で追い込むよりも早く理想的な音に近づけるような気がします。 曲によって多少バランスを変えていったりもします。 マイクを複数使う時はコンデンサーとリボン、コンデンサーと真空管、というように違うタイプのものを使った方が当然ミックスでの可能性が広がります。

アルバムは全11曲、なんと1日で録りました! 10曲がショパンの曲でトリオで8曲、ピアノとベース、ピアノとドラムのデュオがそれぞれ1曲ずつです。 選曲は比較的オーソドックスですが、中でも僕が好きなのはプレリュード第4番 ホ短調(Op.28-4)、そしてノクターン第20番 嬰ハ短調 (遺作)、そして幻想即興曲第4番 嬰ハ短調 の3曲です。 繊細で詩的なショパンのメロディと、ジェイコブのアレンジと演奏は相性抜群、クールなのに優しく、包み込むようなトーンです。
ミックスは2日間、高道さんとジェイコブが来てくれました。 アコースティック編成なので、曲ごとに音色を大きく変えたり、凝ったエフェクトを使ったり、ということはしていません。 3人の演奏が素晴らしいので、ミックスも楽でした。 ジェイコブのピアノはもちろん、高道さん・二本松さんの演奏はまさにサポート、ベースとドラムはやや奥まったところから聴こえるようにミックスしていますが、トリオが溶け込み、そして絡み合うといった感じで絶妙な演奏です。
そしてボーナス・トラックの「イオニアン・ハープ」はショパンの「エオリアン・ハープ」にインスパイアされたジェイコブのオリジナル、ループ素材を11種類録り(ピアノ6、ドラム4、ベース1)、ミックスで曲を作っていきました。 この曲のみ凝ったエフェクトも使っていますが、不思議とこのショパン・アルバムに違和感なく溶け込んでいます。

繊細で美しいジェイコブのピアノ、ジャズはどうも難しくて、という方でも楽しんでもらえると思いますよ、ぜひ聴いてください!