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このページでは音楽制作エンジニア、葛巻善郎日々の出来事をつづります。

TOKYO SESSIONS 1989

もうだいぶ前のことではありますが、ハース・マルティネスやジョン・ホールといったウッドストック系のアーチストのリリースで知られたドリームスヴィル・レコードというレーベルがありました。 音楽ライター 長門芳郎さん監修の元、魅力的なカタログをリリースしていましたが、そのドリームスヴィル・レコードなんと久々の新作は Peter Gallway「TOKYO SESSIONS 1989」です。 流通を Vivid Sound が手がけることになった縁で、僕がマスタリングをしています。

ドリームスヴィル・レコード

For All The Believers in Magic !

http://www.dreamsville.jp/

このアルバムは正確にはリイシューではなく、発掘された新音源です。 元フィフス・アヴェニューバンドのピーター・ゴールウェイがマレイ・ウェインストックを伴い来日した際FM東京(現 TOKYO-FM) のレコーディング・スタジオに於いて行なわれたセッション音源で、ピーターを信奉する日本のトップ・ミュージシャンが集った、「日米シティ・ポップ夢のスーパー・セッション」なのです。 詳しくは amazon 等の解説を見ていただくとして、この参加メンバーがすごい! 佐橋佳幸 (ギター)、湯川トーベン (ベース)、野口明彦 (ドラムス)、中山努 (キーボード)、鈴木祥子 (バックグラウンド・ヴォーカル/ドラムス)、田島貴男 (バックグラウンド・ヴォーカル)、ブレッド&バター (バックグラウンド・ヴォーカル) まさにスーパー・セッションですね (敬称略)。

BBE Sound Sonic Sweet

2月

スティームハマー

258tc

NHK スペシャル・20年の歴史

パトリック・モラーツ

1月

謹賀新年

プレイバック 2009 - 10月〜12月

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プレイバック 2009 - 1月3月

グラハム・ボネット

悲劇のティーン・パンク

pass-port

ファンの間でCD化が待ち望まれていたこの幻の音源、長門さんの尽力によって発掘されたマルチ・テープを佐橋さん監修の元リミックス、そして佐橋さんはマスタリングのチェックにここ Studio CMpunch にも来てくれました。

このアルバムは2枚組で Disc 2 は名古屋でのピーターのコンサートを収録した DVD となってますが、僕がマスタリングしたのは Disc 1 の Tokyo Sessions のみです。 20年前の音源のマスタリング、ということならもう何枚も作っているので特に難しくはないのですが、今回難しかったのはマルチが見つからなかった曲が2曲あったため「Tokyo Sessions」に2種類の質感があるということ、さらにボーナス・トラックの渋谷クアトロでのライヴ音源も加えると3種類の質感があり、それらをなるべく違和感なく1枚のCDにまとめなくてはいけない、ということです。

ということで、まずは曲順通り、リミックスされた本編から作っていくわけです。 下の写真がマスタリング時にかけたプラグイン一覧、「マスタリングの全知識」で説明したのとほぼ同じです (写真をクリックすると拡大します)。 ここでの特徴はあえてオーディオ・トラックとマスター・トラックに分けていること、オーディオ・トラックは bx_control によって MS 処理され、その後6つのプラグインが MS モードでインサートされています。 これは僕のひな形でほぼ全てのマスタリングはこの構成で行いますが、6つのうち1つだけを音源が録音された年代によって使い分けます。 新しい録音のものなら DAD Valve を、80年代以前の録音なら Tape Head を使うのです。
そして今回の場合は89年の録音なのでどちらでもおかしくなく、あらかじめ準備しておいたものを佐橋さんに聴いていただき、結果 Tape Head が採用されました。

マスター・トラックに挟んである bx_dyn EQ が最近の秘密兵器で、これによって MS マスタリングがさらに独自の世界へと拡がっていくのですが、これに関してはまたいずれ紹介します。
本編9曲の音はわりとすんなり決まりました。 そして本編ではあるもののマルチが見つからなかったため89年当時の放送音源からのマスタリングとなった2曲、当然それまでの9曲に比べると線が細いです。 これを太くするのは Tape Head を使えばそんなに難しくないのですが、線が細いということは高域に音が集中しているわけで、それをだいぶ削って前の9曲から違和感なく繋がるようにします。 こういった処理には Waves の Puig Tec EQP-1A を使えば迷わずにできます。
そしてボーナス・トラックのライヴ曲「Like a Rolling Stone」、質感が違うだけでなく、コンソール・アウトからの音源のようでいわゆるラインの音です。 これも Tape Head と Puig Tec EQP-1A で音を作っていきました。 これ以外のプラグインを全曲同じ設定にすることによってアルバムの中の統一感ができます。 そして音圧感はオーディオ・トラックのヴォリュームとマスター・トラックの最後にインサートしてある L3 の Threshold の値を微調整して多少の波を演出していくのです。

このアルバムのマスタリングをしたのは昨年の12月、佐橋さんはいくつものプロジェクトを抱えていたため1時間ほどの滞在でしたが、3つの質感を確認して、それぞれ満足してくれたようです。

そんなわけでこの「TOKYO SESSIONS 1989」、昨年の、というより現時点での僕のベスト・ワークの一つです。 どのような音量で聴いても気持ち良く聴けるはずですが、できれば大音量で聴いてください(^_^;)
お薦めは M03_The Last Goodbye、ピーターに絡む田島貴男さん、鈴木祥子さん、ブレッド&バターの日本語によるバックグラウンド・ヴォーカルが素晴らしいです。 そして M05_Sunday Basketball、とても1回のリハーサルで本番に臨んだとは思えない素晴らしい演奏です。
田島さんと祥子さんの声はほぼ同じ定位から聴こえますが、つまり目を閉じると窓の向こうにあるスタジオでまさに演奏している姿が浮かんでくると思います。

マスタリングして以来僕の最近のヘビー・ローテーションです、ぜひ聴いてください!