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このページでは音楽制作エンジニア、葛巻善郎日々の出来事をつづります。

258tc

紹介がちょっと遅れましたが、岩手県を拠点に活動しているバンド 258tc のミニ・アルバム「Declaration Of War」のミックスとマスタリングをしました。

258tc

メンバー全員が麻雀好き、リャンウッパティーシーと読むそうです

http://258tc.web.fc2.com/top.html

ドラマーでレコーディングも担当したYさんから初めて連絡をもらったのが昨年8月、僕のミックス本を読んでくれていて、レコーディングまでは自分たちでなんとかできるけど、最高の作品にするためミックスからお願いできないか、ということでした。 こういった依頼は最近増えてきてはいますが、もちろん僕にとっては光栄なことであり、そしてプレッシャーでもあります。 メンバー自身がミックスをする利点として、目指したい音を一番良くわかっている、というのがありますが、それを捨ててバンドのことをまったく知らない僕に頼む、ということですから。 しかも本拠が関東近郊でない場合、打ち合わせやライヴを観に行ったりもできません。 しかし、何度かメールのやりとりをし、10月にはYさんがわざわざここ Studio CMpunch まで来てくれました。 その熱意に応えたいのと、バンドの音楽性が僕の好きな感じだったので、やらせていただくことにしました。

NHK スペシャル・20年の歴史

パトリック・モラーツ

1月

謹賀新年

プレイバック 2009 - 10月〜12月

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プレイバック 2009 - 1月3月

グラハム・ボネット

悲劇のティーン・パンク

pass-port

THIS IS IT !

12月

Crazy Love

Riverdance

バンドは女性ヴォーカルで、音楽性を言葉で説明するのは難しいですが、ちょっとプログレっぽい、独自の世界観を持っている感じです。 「どんどん変な音にしちゃってください!」と、これまた難しい注文と録音したデータが届いたのが10月末でした。 そして締め切りが11月中旬、幸運にも1週間ほど集中できる時間があったので、ミックスしてはデータを送り確認してもらい、を何度か繰り返しました。
ということで、このアルバムのミックスにおける課題は変な音を作る、そしてギターがライン録りで、一部はエフェクトもかかっていなかったのでそれらの音作りもする、ということでした。

僕はわりと幅広い音楽に対応できる方だと思いますが、中でも特にアコースティック系、クラシックやジャズのような音楽が得意なような気がします。 マスタリングにおいても「美しい音」というのがテーマになっていますが、それを作るためにその対極にある汚い音、変な音を作るというのも、これまた自分のためになるはずです。 そう思い、なるべく普段使わないプラグインをたくさん使うようにしてみました。 以下、今回このCDのミックスで使ったプラグインとその使い方を書いていきます。

まずは Audio Ease の Cabinet、ご覧の通りアンプ・シミュレータのキャビネット部分のシミュレートのみに特化したプラグインです(写真をクリックすると拡大表示します)。 Audio Ease といえば普段僕がミックスで必ず使っている Altiverb で知られていますが、Canibet は前から気になっていて今回このミックスに合わせ購入しました。 これは Speakerphone というプラグインの抜粋版のためなんと $59.95 、ひじょうにお買い得です。 Altiverb 同様、同社の優れたコンボリューション(畳き込み演算) 技術が素晴らしく、また Cabinet は抜粋版のため機能も多くなく、とても使いやすかったです。 これは E.Gt. の大半のトラックに、空気感を足すために挿していきました。 素晴らしいのは Spring Reverb を足していけること、そして部屋のアンビエンス成分をも足していけることです。 アンビエンス成分を多くしていくと当然音はぼやけていきますがあえてこれを多くし、別トラックに同じギターをコピーし、そっちには Cabinet を挟まずに両方のトラックを同じくらいの音量で出す、さらに定位をまったく逆に振るとアンビエンス成分が流れていく、なんとも雰囲気のあるサウンドができます。

続いて Waves の MetaFlanger です。 これは普段もたまに使いますが、簡単で使いやすいフランジャーです。 今回は変な音にするため、Feedback をかなり多め、そして Mix を普段は 20〜30 辺りで使うところですが今回は70前後にしたり、オートメーションで30から始めてイントロ終わりで100全開、みたいな感じで主にギターに使っています。 曲が終わってもギターだけうねり続けている、なんていうのも効果的でした。

Antares Warm です。 以前 Tube というズバリなネーミングの真空管シミュレート・プラグインがあり愛用していましたが なぜかなくなってしまい、何年か前に AVOX というバンドルが発売された時にめでたく名前を変え復活しました。 Drive ツマミで歪み具合を足していくことができ、ナチュラルなサウンドから過激な歪みサウンドまで簡単に作れます。 これはいくつかのトラックの一番最初に挟み、アナログ感を付加するのに使いました。

Massey-Plugins の THC です。 このメーカーは Steven Massey という技術者が個人でやっているため、ダウンロード販売のみで しかも安価、この THC はなんとわずか $69 です。 他にもいくつかのプラグインがだいたい同じような値段であり、リミッター L2007 やアナログ・シミュレータ Tape Head、コンプ CT4、EQ vt3 は普段のミックスやマスタリングにおいてもよく使っています。 この THC は歪み倍音を付加するプラグインで、その歪み方はかなり過激かつ独特のものです。 ミックス本でも紹介していますが、こういった過激な音になるプラグインはコピー・トラックに挟んで元の音に足していく、というのが使いやすいです。 女性ヴォーカルに使うと曲によってはかなり効果的で、以前シンガー 青木カレンさんの声にもたまに使ってました。

Waves GTR です。 これはいわゆるアンプ・シミュレータ、普段もたまに使っています。 しかし僕はアンプ部分はバイパスにして、キャビネット部分のみ使います。 Mic は通常 SM57_on で使うことがほとんどですが、コンデンサー VM1 にしてオフ・マイクで使っても効果的です。

再び登場の Massey-Plugins、テープ・ディレイ TD5 です。 Tone と Mode でサウンドのキャラクターを作り、Blend でどの程度ディレイ音を混ぜるのかを決めます。 テープ・ディレイなので、4分音符から8分音符に変更する、つまりディレイ・タイムをリアルタイムで変えていくと「ギュルーン」とか「ヒューン」みたいなあのサウンドが足されます。 ミックス本でも紹介していてなかなか使う機会はないプラグインではありますが、今回はイントロのギターにおもいっきりかけ、ブレイクと同時に「ビューン」と駆け上がっていくのをオートメーションでなくリアルタイムで頑張ってみました。

続いて編集ウィンドウ画面のプレビューをいくつか。
これはヴォーカルのミックス、今回ほとんど全曲でヴォーカルはコピー・トラックを作り、片方にコンプをかなり強めにかけています。 これにわりと元音のままのトラックをうっすら混ぜるとあら不思議芯のあるヴォーカル・サウンドになります。 ヴォリュームのオートメーションは僕は普段ほとんど使わないことが多いのですが、女性ヴォーカルの場合は音域によってはバックに埋もれてしまうので、そういう時に持ち上げたりはします。 今回も大ざっぱなオートメーションしか使っていないのがわかると思います。 下の5つがバックグラウンド・ヴォーカル、最初の2つは同じもので、上はそのままセンター、下のはショート・ディレイで左右に拡げて、両者を混ぜています。 下3つはダブルで録ったものを左右に拡げ、さらにそのダブルをコピーし、左右の定位を反対にして軽く混ぜ、人数感を増やしています。

次は「Assassin」という曲のイントロ部分のドラム、ご覧の通りドラムはステレオ・バスにまとめ、このトラックにもコンプをかけていますがこれはどちらかというと音量調整の役割です。 最初の4小節のみプリ・ミックスを作り別トラックにそれを録音、コンプと Nomad Factory の RetroVox 、そして Cabinet などでローファイなサウンドを作り、定位も狭めてほぼセンターから聴こえるようにし、5小節目からは通常のハイファイなドラムに切り替わる、というような演出です。

次は1本しか録られていないバックグラウンド・ヴォーカルの拡げ方です。 やはりコピー・トラックを作り、片方にショート・ディレイをかけ左右に拡げます。 これだけでも充分なのですが、もう一つのトラックはモノにしたままモノのリヴァーブ(ここでは AIR Reverb) を挟み、ちょっとした浮遊感を加えます。 そしてこの両方のトラックを混ぜればなんとも独特な拡がりと浮遊感のバックグラウンド・ヴォーカルになるのです。

などといろいろなことを試し、僕なりに変な音をいっぱい作りました。 幸いYさんのねらいともほぼ重なり、ほとんどやり直しはなく1週間でミックスとマスタリングを仕上げ、Yさんだけでなくメンバー全員すごく喜んでもらえたようです。


僕にとってもすごくためになった、印象に残るお仕事でした。