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このページでは音楽制作エンジニア、葛巻善郎日々の出来事をつづります。

pass-port

幸運なことに、ほぼ全てのお仕事がクライアントさん・アーチストさんに喜ばれ、自分でも思い入れのある作品になっているのですが、中でも「これは全てにおいて最高のチーム・ワークだった」と後々まで印象に残る作品も年に何枚かはあります。 今回紹介する一枚がまさにそう、audace「pass-port」です。 僕はレコーディングからマスタリングまで全てのエンジニアリングを担当しています。

audace

ここにあるのは、ただ、濃密な、音楽という心象風景

http://avec-audace.org/top.html

audace はアコーディオンの しこう (伊藤志宏) とクラリネットの がく (北田学) の二人によるデュオ、リリースは今年たくさん一緒にお仕事をいしているランブリング・レコーズからです。
録音は今年の8月ですが、それに先がけ7月にレーベルのNさんから相談を受けました。 「こういう編成のユニットのCDを出す予定なんだけどどう思います?」 他の打ち合わせもあり出かけた代々木のレーベル事務所でNさんからデモを聴かされて、「これは僕の仕事でしょう」と即答しました。 そのデモはライヴ・ハウスでのラフ録音でしたが、アコーディオンとクラリネットという珍しいデュオ編成、そして独創的な音楽性、これは僕が録らなきゃ、と思ったのです。

THIS IS IT !

12月

Crazy Love

Riverdance

生きる力のハーモニー

シアトリカル、そして退廃的美学

NumberClub

リボン・マイク

激レア盤初CD化

新しいプラグイン - Tube Saturator

11月

静かなる男

オリジナル段ボール

TSUNAMI MUSIC

Aoyama Folk Ways

NHK スペシャル20周年記念盤

というわけで8月のお盆の時期にレコーディングを行いました。 スタジオは練馬区のスタジオ・ラウム 338、何度か紹介していますが、僕がかつて務めていたスタジオです。 現在はリハーサル・スタジオとなっていますが、ここのAスタはアコースティック楽器には最適の響きを得られます。 リハ・スタなので全ての機材を持ち込み、僕とNさんも同じAスタ内に場所を作ります。 上の写真がレコーディング全景、といってもスタジオ内のアンプ類なども写っていてわかりにくいと思いますが、アコーディオンとクラリネットにそれぞれ RODE の真空管マイク K-2 とステレオ・マイク NT-4 をセットしています。 楽器側から写したのが下の2枚、ご覧のように SE Electronics Reflexion Filter を使って、オン・マイクに背後からの響きが入らないようにしています。

そして二人の位置から一番離れたところにアンビエンス・マイクを2本天井に向け設置、新しく購入した MEARI 391 A-7 を使っています (写真左下)。 そして僕とNさんはやはり二人から離れた位置にテーブルを置きそこにプリ・アンプとレコーダを置き録音中はじっとしていました。 写真右下が使用機材、いつものように api 3124+ と Mackie SDR 24/96 です。 ラックの上に乗っているのはテイクをみんなで聴く時のためのモニター、ランブリングにあったのを持ってきてもらったのですが、なんとこれ一つでステレオ再生をするのです。 どういう原理なのかはよくわかりませんが、それなりにステレオ感もあり、アンプ内蔵ということもあり今回の現場には重宝しました。
マイク・ケーブルは全てレクストのものを使用、そして演奏時にヘッドフォンは使用せず、当然クリックもなしです。 事前の打ち合わせ通り、何テイクか録って、後日必要なら編集をする、というやり方で臨みました。

全12曲ですが、録音はたった2日間で行いました、かなりの強行スケジュールです(^_^;) そして、お二人とはこの時が初対面 (志宏さんとは青木カレンさんのレコーディングなどで何度かニアミスしていますが) だったので、おそらく録った音を聴くまでは不安だったと思います。 しかし、最初に録った「for B」のテイクを確認してすぐに「なるほどこういうことか〜」とお二人とも納得・大満足、その後は順調に録音を進め、最終的には少し時間が余ったほどです。
この録り方のミソはアンビエンス・マイクをメインとしつつも、オン・マイクを真空管マイクなどでしっかり録っておき、少し足すことによって芯を出す、ということです。 今回演奏者2人ということでスペースがあったので真空管マイクだけでなくステレオ・マイクも使っているのですが、これがまたうまく作用し、曲によって微妙にマイク・バランスを変えることにより異なるアンビエンス感、押し出し感を作り出すことができました。

今回「最高のチーム・ワークだった」と思ったのは、その作業の早さです。 録音は2日間、そしてミックスは僕の準備に1日、二人に来てもらって一緒に作業したのが1日、そしてマスタリングはもちろん1日、と全部で5日くらいしかかかっていないのです。 もちろん録音前の綿密なプランニングなどがあったからできたことではありますが、フル・アルバムの制作日数としては限りなく最短に近いのではないでしょうか。
そして特筆すべきは演奏の素晴らしさ、もちろん1曲につき何テイクか録っていますが、結局一切の編集はせず、すべて一発録りになりました。

全12曲中それぞれのソロが1曲ずつあるのでデュオでは全10曲になります。 ジャズがベースなのでテーマ提示、そして展開、という曲調が基本ですが、綿密な約束事はなく、その場の二人のひらめきで展開していくので曲のタイムもテイクごとに全然違ってました。
しこうさんはボタン・アコーディオンを時には叩き、がくさんはクラリネット、時にはバス・クラに持ち替えての華麗なバトル、僕とNさんはその最初のオーディエンスという最高にラッキーで楽しい二日間でした。

ミックスでも凝ったことは特にしていませんが、1曲だけ、11曲目の「水晶の灯台」のみ、フェード・アウトにして、その後に残念ながらボツになったテイクの中からいくつかを拾い出し、10〜20秒くらいのモチーフにし、さらにローファイ処理や逆回転などをしてコラージュを作っています。

上の写真2枚は audace の二人とレーベルのNさん、左はレコーディング収録後、右は Stduio CMpunch でミックス終了後の一枚です。

そしてこのアルバム、扉写真にあるようにアート・ワークも素晴らしいですね。 さらに下の写真のように、特殊加工のジャケットも素敵です。

音に関わる部分だけでなく、アート・ワークなども含めた全てのスタッフが同じ方向を向き、一つになった、素晴らしい作品だと思います。


ぜひ聴いてください!