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このページでは音楽制作エンジニア、葛巻善郎日々の出来事をつづります。

君の歌

シンガー 曾我泰久さんのソロ・デビュー20周年記念盤「君の歌」がリリースされました。 曾我さんにとって初めての「レコード屋さんで買える」CDです。
レコーディングからミックス・マスタリングまで、全てのエンジニアリングを、もちろん僕が担当しています。

曾我 泰久

http://soga21.com/index.html

今までのCD「Super Rare Trax」シリーズと「Music Life」シリーズは、旬の曲を届けようという趣旨の下、基本的に曾我さんが全ての演奏とプログラミングをし、収録曲が少ないこともあって、実質のレコーディング期間は1〜2週間程度でした。 歌録りは2日間ほどで全てやってしまったこともあります。 しかしこの「君の歌」、最初にリズム・セクションを録ったのは3月2日なので制作期間約半年!、その間少し間が空いたりもしていますが、ほぼずっとこのCDのレコーディングやミックスをやっていました。

そしてこのアルバム、光栄なことに僕のレコーディング本とコラボしているのです。 本には曾我さんとの対談コーナーがあり、詳しいいきさつなども述べているので、レコーディング・エンジニアのためのガイド本ですが、曾我さんのファンも楽しめる内容になっていると思います。 その他、参加ミュージシャンにも協力してもらい、ドラム一つ一つの音や、マイクの種類によるサウンドの違いなどを音で収録、かなり興味深い内容になっていると思います。

Mellowmuse Vintage Bundle

ON FIRE

10月

うたのゆくさき

煩悩 108

Aoyama Folk Ways

9月

A STAR LIGHT IN MY LIFE

Decapitator

8月

Japan Fire 4

天国のような霧

Speak Louder !!

大掃除

7月

音響のアルチザン

レコーディング期間は長かった、と書きましたが、レコーディング・スタジオでの録りはたった3日間、バンド録りが2日、弦カル録りが1日だけです。 今回のバンド・メンバーは曾我さんのたっぷりの思い入れで集まった3名、ドラムに長谷部徹さん、ベースが松原秀樹さん、そしてキーボードが小野澤篤さんです。
バンド録りの様子はレコーディング本にかなり詳しく書いてあるので、ここではそこに載っていない写真を少し紹介します。 写真左下がドラム録り全景、右の写真は別角度です (クリックすると拡大します)。 そしてその下の写真がスネアとハイハットのアップ、徹さんの要望により、普段僕が愛用しているスネア用のマイク Audix D-1 の隣に Shure SM57 を並べ、両方の音を録っています。 これは初の試みでしたが、実に良い結果をもたらしてくれました。 この2本のマイクのバランスを曲によって変えていく、これによって EQ より簡単に良いサウンドを作っていくことができ、これは新発見でした。 さらにスネアの下にも D-1 を置き、3本のマイクと DRUMAGOG のサンプルの音も使っているので、全部で4つの素材をミックスし、スネアの音を作っているのです。 ちなみにキックも、マイク3本とサンプルの計4つの素材をミックスしています。

秀樹さんのベースはラインのみで録音、最近ずっと愛用しているプリ・アンプ付きの DI、Summit Audio TD-100 のプリ・アンプ・アウトとプリを通らない DI アウトを両方録っています。 プリ・アンプ・アウトはさらに api 3124+ で軽くドライブさせ、基本的にはこのチャンネルをメインで使っています。 これが実に素晴らしいサウンドだったので、ミックスでも通常使うことの多いアンプ・シミュレータを使わず (一部の曲では使用)、コンプとほんの少しの EQ だけ使いました。

アルバム収録曲は、これまでの曾我さんのソロ・アルバムからの選曲、つまり既に発表された曲ばかりなのですが、このアルバムのためにアレンジをやり直し、打ち込みは一切使わず、全て生演奏です。
このメンバーでスタジオに入るのは20数年ぶりとあって誰もが楽しみにレコーディングを迎え、そしていざ音を出した瞬間、鳥肌が立つとはこういうことを言うのでしょう、呆然と聴き入ってしまいました。 みなさんプロですから、再開を懐かしむ間もなくレコーディングに入っていったのですが、それぞれの演奏で、音で会話をしているかのようでした。 かつてのバンド・メイトが、この20数年それぞれ死にものぐるいで頑張ってきた、それぞれの魂が一つになり、たった3人で演奏しているとは思えない、猛烈な音圧でした。 曾我さんもスタッフも、そして僕もまさに言葉を失い、曾我さんは感動のあまり仮歌が歌えなくなるほどでした。

そんなわけでレコーディング期間が長かった、というのは主に曾我さんの歌録りです。 並行してレギュラー・バンドでの20周年記念ライヴ、ソロでの弾き語りライヴ、そして近年力を入れている新しいバンド活動なども同時に進行していたので、今年は常に歌いっぱなし、コンディションを整えるのがたいへんだったと思います。 何度も何度も歌い直し、一度 OK になったテイクも「やっぱりまだ納得できない」とさらに歌い直し、歌録りに来たものの声が本調子にならず、結局レコーディングはせずにその日は終了、という日もありました。 最高の演奏に応えるべく、最高のヴォーカル・パフォーマンスをしなければいけない、かなりのプレッシャーだったと思います。
そんなみんなの思いがこもった「君の歌」、ついに完成しました。

曾我さんにとっての集大成という意味合いはもちろん、レコーディング・スタッフとして曾我さんを支える僕にとってもこのアルバムは集大成なのです。 Pro Tools という DAW の出現によってレコーディング革命が起き、経験と試行錯誤を重ねてようやく、Pro Tools でのミックスやマスタリングでほぼ自分の理想と言えるサウンド作りができるようになってきた、そんなタイミングでのこのアルバムなのです。 ミュージシャンが魂込めて演奏した想いを、余計な解釈など挟まず、そのままCDという枠に収めていったつもりです。

これは僕のこだわりなのでこのアルバムに限ったことではないのですが、一切の修正はしていません。 今時のレコーディングはもう何でもあり、録ってからが本番だ、みたいな風潮がありますが、マジックはレコーディングの時に起こるのです。 エンジニアはそれを記録し、再現すれば良いのです。 正確にはどうしても、と言われて1ヶ所だけピッチ修正をしていますが、それでもたった1ヶ所です。 ヴォリュームのオートメーションですら、ほとんどしていません。
メンバーや曾我さん同様、僕も最高の仕事ができたと思います。

素晴らしいメンバーをもう一度集めて、レコ発ライヴが先日行われました。 ライヴ会場へ行くエレベータの中で「葛巻さんですよね、素晴らしいCDをありがとうございました」と曾我さんのファンの方に声をかえられ、予想外の出来事に気の利いたコメントも返せず、たいへん失礼しました(^_^;)
ライヴでの曾我さんはさらに進化していました。 レコーディングではあんなに苦しそうにしていたのに、何度も歌い続け、全国を弾き語りライヴなどで回り続けた結果、曾我さんの声はさらに力強くなっていました。
すごいなぁ、さすがだなぁ、負けじと僕も頑張りますよ♪