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このページでは音楽制作エンジニア、葛巻善郎日々の出来事をつづります。

Promised Land

ゴスペル・シンガー Migiwa さんのニュー・アルバム「Promised Land」がリリースされました。 僕がレコーディング・ミックス、そしてもちろんマスタリングをやっています。

Migiwa

http://migiwa.in/index.html

レコーディングの様子は8月の日記の中に詳しく書いてますので、そちらを参照してください。
今回は主にミックスのことを書きます。

収録曲は全7曲、アコースティック・アルバムなのでメインのパーカッションが替わる他は基本的に同じ編成、下の写真が3曲目「悔いた心」のミックス・ウィンドウです (クリックすると拡大します)。

雨に泣いてる…

りんごの子守唄

10月

Till the End

9月

15枚目

アコースティック・アルバム

8月

RS124

KEATS

7月

Urban Sound Cruise

花想ひ

6月

Welina 〜祈りとともに〜

たたえつくせなき

自分ならではのミックスの方法というのはもちろんある程度確立しているわけですが、不動な部分はそのうちの70%くらいで、残り30%はその時々のこだわりや買ったばかりのプラグインなどの要素で変わります。
まず Altiverb と組み合わせるリヴァーブですが、最初は IK Multimedia CSR を使っていました。 後に Overloud BREVERB、Softube TSAR-1 と来て、最近は UAD-2 の Lexicon 224 を使っています。
そして Audio Track の一番最初には McDSP Analog Channel AC101 を入れ、自分で作ったプリセットをトラックごとに多少エディットします。 全トラックに AC101 を入れつつ、たまに気分でいくつかを他のアナログ系プラグインに替えます。 最近使うのは Antares AVOX WARM か Slate Digital Virtual Console Colletion ですね。

次にコンプですが、必ず全部の Audio Track にコンプをインサートします。 お気に入りのコンプ、よく使うコンプがそれぞれあり、さらにたまにしか使わないコンプも含め、なるべくいろいろなメーカーのいろいろなコンプを使います。 これはメーカーやモデルによって質感やアタック感がそれぞれ異なるので、こうやっていろいろなコンプを使うことによって自動的にいろいろな奥行き感が得られるからです。 好きなコンプはいっぱいあるのですが、特に LA-2A が使いやすいのもあってお気に入り、いくつかのメーカーから LA-2A のシミュレートが出ているので、それらを使い分けます。 ちなみに、これらは同じツマミの設定にしても、出音の質感や音量はまったく違います。

最後に EQ、ハーモナイズ系、飛び道具系を経て、一番最後には必ずマキシマイザーが入ります。 Waves L1、L2、McDSP ML4000、Massey Plug-ins L2007、PSP Audioware Xeon、RNDigital Finis の中から気分で振り分けます。
今まで書いてきたプラグインは基本的にダイナミクス系なので音量・音圧、そして奥行き感をコントロールします。 音質的な部分は EQ、ハーモナイズ系、飛び道具系で作るわけですが、この時のこだわりは「なるべく EQ を使わない」です。 なぜなら EQ は良いポイントに追い込むのが難しく、時間がかかってしまい、位相を悪くすることもあるからです。 コンプと違って EQ はお気に入りのものが見つかったら多用して良いと想います。 今までは Pultec タイプのものを多用していましたが、最近は Softube の Active Equalizer と Focusing Equalizer をよく使っています。

今回工夫した点は、Migiwa さん自身のバックグラウンド・ヴォーカルの質感とカホンの低音です。
シンガー自身がバックグラウンド・ヴォーカルも全てこなす場合 (こういうケースの方が多いです)、リード・ヴォーカルの質感・倍音と当然似てきます。 そこでバックグランド・ヴォーカルには Nomad Factory E-RetroVox をかけて細くしたりローファイにしたりします。 この音をソロで聴くとしょうもなくショボい音なのですが、これをリード・ヴォーカルに混ぜ、オケの中に入れるとあら不思議実にかっこいい質感で聴こえるのです。
次にカホンの低音ですが、8ch 使っているうち低音を抽出しやすいチャンネルを探し (今回はオン・マイク)、コピーしてダブルにして、リプレース (差し替え) プラグインを挟みます。 いくつか持っている中から、最初に購入して使い勝手が良い WaveMachine Labs Drumagog 5 を今回も使い、付属音源の中から選んだ Kick に差し替えます。 ソロで聴くともちろんカホンには聴こえません。 このキックをうっすら混ぜるとこれまたあら不思議、しっかりとした重低音を伴ったカホンに聴こえるのです。

レコーディングの時の日記に書いたように、今回プロデューサーの I さん、そして MAG のスタッフの素晴らしいサポートにより、僕の思い通りにレコーディングを進めることができました。 それによってモチベーションも最大限に上がり、このアルバムのミックスには自分のアイディアを全て出した、と言っても過言ではありません。 あちこちにいっぱい工夫をしているのですが、結果出来上がったサウンドからは工夫しているように聴こえない点などを含め、大満足のアルバムです。
Migiwa さん始め、ミュージシャンの演奏も素晴らしく、修正はほとんどしていません。 ピッチ修正をアルバム全体で3ヶ所ほど、それ以外のタイミング修正などは一切していないので、現代のレコーディングの中ではまったくしていない、と言っても良いと思います。
また、ヴォリュームなどのオートメーションもほとんど書いていません。
修正をなるべくしないこと、オートメーションを多用しないことは僕のポリシーでもあります。 ゴスペル流に言うと「神さまの意志に反する」からです。


それにしても今回、レコーディングというのはチーム・ワークであり、そのチーム・ワークがうまくいった時、そこに足し算の奇跡が起こることをあらためて実感しました。 素晴らしい仲間たちと作り上げたこのアルバムは僕の宝物であり、一生忘れないと思います。

「Promised Land」、ぜひ聴いてください!