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このページでは音楽制作エンジニア、葛巻善郎日々の出来事をつづります。

歴史的共演

ここ数年CD制作などに関わっている金剛山歌劇団の特別公演が新宿文化センターであり、記録用レコーディングに行ってきました。

金剛山歌劇団

日本で生まれ育った在日朝鮮人総合芸術パフォーマンス集団

http://www.kot-jp.com/

普段彼らはアンサンブル公演と題し音楽や舞踊、さらにはそれらを融合させた歌劇を全国で公演しています。 今回の公演がなぜ特別公演なのかというと、舞踊はなく音楽のみ、そしてステージに上がるのは器楽部のメンバーみんなではなくソリストのみ、そしてバックを務めるのがなんと東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団なのです! いろいろな情勢を考えた時に、この企画がそんなに簡単なものではないことは容易に想像がつきますし、歌劇団が在京プロ・オケと共演するのは史上初ということで、まずは記録用にきちんとレコーディングをしよう、ということになりました。

アメリカン・フォーク

12月

ストリング・ドリヴン・シング

無限マイナス at クエストホール

スポンジトーンズ

「Karen's Swingin' Party」 発売

柳ジョージ&レイニーウッド

ゲイリー・グリッター

雪 〜あなたがいてくれたら〜

パーフェクトワールド

少年歳時記

親愛なる神様へ

マスタリングの全知識

11月

Karen's Swingin' Party

上の写真が新宿文化センターの様子です、上手側にパイプオルガンがありますね。 左上の写真の真ん中上部にちょっと見づらいですが三点吊りのマイクが見えます。 これがノイマン SM-69 というステレオ・マイクで、基本的にはこのマイク一本のみで録音します。 そして補助マイクを何本か足していくのですが、今回使ったのはソリスト用 (audio-technica AT4040)、そして重唱用 (MEARI 319 A-8)、そして指揮台の後方に CROWN のバウンダリー・マイクを1ペア置きました(写真右上の2枚)。

今回の公演はもちろん画期的なことで、この話を聞いた時から楽しみにしていましたが、同時に不安でもありました。 民族音楽特有のリズムや旋律、これらをオーケストラがどこまで表現できるのかな、ということです。 事前の合同リハーサルはわずか一日しかとれず、全15曲なので1曲あたり20分しか合わせることができなかったのです。 やはりリハーサルでは音楽の表現ということの前にリズムのとり方の確認などに時間がかかってしまいました。

扉写真、そして上の2枚はいずれも当日のゲネプロの時のものです。

シティ・フィルの編成は標準的な二管編成、若干金管楽器が多く総勢60名ほどでしょうか、これだけの人数になると tutti (全員が演奏すること) の時にどうしてもソロが負けてしまいます。 そこで、本来は録音用のソリストのマイクの音をモニター卓の別のグループ・アウトから出し、会館備え付けのスピーカーからほんの少しですが出していました。 このちょっとした PA も僕が担当しました。

写真を撮るのを忘れてしまいましたが、録音は客席後方の中継室という部屋に回線を送り、api のプリ・アンプやハードディスク・レコーダーを設置し、行いました。 中継室の窓は少し開くのでそこから生音は聴こえるのですが、やはり客席に行かないと全体のバランスはわからないので、ゲネプロ中に何度も客席と中継室とを往復し、どの程度スピーカーから出すのかを調整していきました。 オーケストラのコンサートなので、できれば PA は使いたくない、しかしまったく使わないと一部聴こえない、そこで観客に PA していることをまったく意識させない程度に補助していく、このバランス加減が難しいわけですが、四苦八苦しているうちにヘッドフォンでモニターし、そのモニター上ではソロがちょっと大きめに聴こえるバランスを作れば、客席では自然に聴こえる、ということがわかりました。そんなわけで本番では生音は一切聴かず、ヘッドフォンをしながら左手をモニター卓のフェーダーに置き、曲のダイナミクスに合わせて上下していきました。 いわゆる手コンプという技です。 幸いほとんどの曲をレコーディングなどを通して知っていたので、それなりに強気に上げ下げしたりもしました。

というような裏話はともかく、ゲネプロもあっという間に終了し、本番も常に緊張しながら録音と PA をしていたので、本当にあっという間に終わってしまいました。 しかし、奇跡は起きたのです! いや、奇跡と言ってはみなさんに失礼でしょう、コンサートは素晴らしかったです。 歌劇団の二人の指揮者は懸命にオケをコントロールし、オーケストラも全力でそれに応えます。 お互いプロなのだから当たり前なのかもしれませんが、なんという理解度、表現力なのでしょう、どの曲も完璧に形になっていました。 もちろんソリストも全力を出し切り、1曲終わる度にオケのメンバーからも拍手、そして客席の拍手も曲ごとに大きくなり、まさに割れんばかりの拍手でした。 ステージと客席、そして僕たち裏方とが完全に音楽を通じて一つになったのです。

僕は日本人です。 しかし、ひょんなことから数年前に彼らと出会い、それからずっとCD制作のお手伝いをし、公演を観に行き、結婚式に呼ばれたり、一緒に食事をしたり、バーベキューに呼ばれ秋川に放り投げられたりしました(笑)。 そんな最高の友達であり、家族のような歌劇団のメンバーたちの特別なコンサートだったのです。 当日はずっと緊張し、なんとしてもコンサートを成功させたいと必死でフェーダーを握っていました。 同じように彼らもみんな緊張していたと思いますが、さすがはパフォーマー、本番が一番良かったのではないかと思います。 そして、何よりも大事なのは、ステージに乗らなかった団員の方がずっと多く、彼らも懸命に裏でサポートしていたこと、そしてコンサートの最後に歌劇団のソリストが去った後も、シティ・フィルに一番大きな拍手を送った観客のみなさん、そういったすべての人たちの力によって、このコンサートが成功に終わった、ということです。 僕の作業も一人ではたいへんなので、歌劇団のリャンギさん、ヨンシルさんにずっと手伝ってもらいました、ありがとうございました。



コンサートの最後の曲は管弦楽「アリラン」でした。 朝鮮民謡の中で最も代表的な曲を、華麗にオーケストラ・アレンジしたものです。 昨年のニューヨーク・フィルの平壌公演の時もこの曲が演奏され、その素晴らしいオーケストレーションにビックリしたものです。 中間の展開部などは僕にはドヴォルザークの交響曲第8番や第9番「新世界」に近いものに感じられました。 この曲は独奏がないので、フェーダーから手を離し、客席の一番後ろで聴いていました。 ゲネプロの時から何度も走っていたので、12月だというのに汗をたくさんかきましたが、汗ではないものも何度もこぼれ落ちたような気がします。


レコーディング&マスタリング・エンジニアの仕事レポートとは思えない内容になってしまいましたが、まぁたまにはお許しください。

今回のコンサートに合わせ発売された金剛山歌劇団の最新CD、木管アンサンブル曲集です。 意表を突いたさわやかな表紙になりました。