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このページでは音楽制作エンジニア、葛巻善郎日々の出来事をつづります。

安かれわが心よ

いずれ紹介すると言いながら発売から既に半年以上経ってしまいましたが、昨年レコーディングしたいくつかのアルバムをこれから順番に紹介していこうと思います。
まずはフルーティスト 紫園香さんのアルバム「安かれわが心よ」です。

紫園さんと初めてご一緒したのは7年前、アルバム「Born Again」のレコーディングの時です。 このお仕事はアルソ出版経由だったので、山中湖にあるアルソ出版の社有スタジオ Studio Upfield で録りました。
本格的なゴスペルのレコーディングはこれが初めてだったのですが、この山中湖でのレコーディングは生涯忘れることはないだろう、たくさんの奇跡を目の当たりにした、とても素敵な3日間でした。 以来、紫園さん・ピアニスト 菅野万利子さん・調律師 名取孝浩さんとは仲良くさせていただき、僕の著書「レコーディングの教科書」でもご一緒しています。

そして今回の「安かれわが心よ」、レコーディングは昨年7月、三鷹市にある三鷹芸術文化センター 風のホールで2日間行いました。
とても響きの良いホールで、吊りマイクは僕の大好きな DPA 4006、なんといってもうちからすごく近いというのも良いですね (^_^;)

クラシック系の出張録音の場合、吊りマイクとマイク・スタンド以外ほぼ全ての機材を持ち込みます。 そして昨年のこの時期は出張機材を大きく一新し、MacBook Pro と Universal Audio Apollo 16 をメインとする Pro Tools システムに変わりました。

4月

3月

ソチ五輪、そしてゴースト騒動 …

2月

機材クリーニング

1月

謹賀新年

プレイバック 2013 - 2

プレイバック 2013 - 1

12月

11月

10月

9月

8月

Aloha Aina

7月

フルートとピアノ伴奏という最小編成ですが、使ったマイクは計11本です。 次なる機材展開としてマイクを一新すべく、デモ機材を用意してもらったりもして、実際には14本のマイクを立てています。

マイキングや機材の様子など、いくつかの角度から写真を撮りました。 クリックすると拡大します。

フルートのオン・マイクには初登場の JZ Microphones V12 と BH-2、ピアノには MEARI 319-A8 のペアを両端、その内側に RODE K2 と Crowley & Tripp Recordist を一本ずつ。 アンビエンス・マイクは Lauten Audio Clarion のペアをステージ最前部へ、そして吊りマイクの DPA 4006 をあまり離し過ぎない位置にセット。 さらにモノラルのアンビエンス・マイクとして JZ Microphones V67、V47、そして RODE K2 と MEARI 319-A8 を立てました (ミックスで使ったのはこの4本の中から1本)。

マイク・プリは僕の愛機 api 3124+、さらに新しいマイクとの相性を検証すべくアンビエンス・マイクのいくつかを AMEK 9098DMA と Rupert Neve Designs Portico 5024 (デモ機) にもパラ接続して録音しています。
マイク・ケーブルは全て Wagnus カスタムの Belden 6302FC、直引きではなく間にCanare の 16ch マルチを挟みつつ、4種類の立ち上げケーブルで api へと繋ぎました。 この4種類の立ち上げももちろん全て Wagnus カスタム、ちょこっとキャラクターを変えることによって、ある帯域 (具体的には中低域) に音が集まり過ぎないようにしているのです。
確認用モニター・スピーカーは最近のお気に入り Audio Pro Black Ruby をステージ近くにセット、高さ20cm弱のこのスウェーデン製のスピーカー、実にバランスの良いサウンドで演奏者を安心させてくれます。

今回のポイントは、新しいものも含めたマイク・プラン、ケーブル・プランが全てうまくいったことです。 吊りマイクから直接繋いだこともあり、やはり DPA 4006 のサウンドが素晴らしいことを再認識しました。 しかしそれ以外のマイクは業界的にはまったく定番ではないものばかり、しかも新しいモデルが多いです。 これはまた別の機会にでも書きますが、明らかに新しいマイクの方が情報量も多く、今時の音で録れるのです。
モノラルのアンビエンス・マイクは、どちらかというと新しいマイクのサウンド確認用に録ったのですが、意外にもこれが良い味になりました。 MS ステレオ録音のコンセプトの本質とはちょっとずれますが、センターの音像強化に貢献してくれています。
これだけではあまり参考にならないと思いますが、Pro Tools のミックス・ウィンドウの様子もキャプチャーしてみました。

多少の編集をしつつ、紫園さんとピアニスト 藤井一興さん立ち会いの下でミックスを進め、約1ヶ月後のお盆明けには DDP マスターを納品していました。
編集もミックスも決して簡単な作業ではありませんでしたが、前述のようにプラン通りに理想的なサウンドで録れたこと、そして紫園さん・藤井さんが僕の感性を信頼してくれたこともあり、まったく迷うことなく作業を進めることが出来ました。
全19曲は賛美歌を中心としつつも、日本の歌、バロック時代の曲、近代・現代の曲、そして今回のために委嘱した新曲もありバラエティに富んでいます。 ともすればアルバムの全体像がぼやけてしまいそうなところではありますが、一貫して感じる紫園さんの神さまへの愛情と賛美、そしてそれを全力でサポートする藤井さんのピアノ伴奏が素晴らしく、聴きどころ満載の素敵な一枚になりました。

昨年末のこの日記に少し書きましたが、僕の恩人である名古屋の叔父が亡くなったのが、この「安かれわが心よ」をミックスしている頃です。
これには深い巡り合わせのようなものを感じずにはいられません。
紫園さんと初めてご一緒したアルバム「Born Again」のレコーディングの頃には、紫園さんのお父さんが天に召されました。 アルバム制作は一度中断したものの、強い気持ちで作られたこのアルバムには愛情や奇跡に満ち溢れているのが実感できます。 そして新作「安かれわが心よ」も僕にとっての特別な一枚になりました。

ありがたいことに、リリース直後からとても評判が良いようです。
音が良い、というようなことをリスナーに意識してもらう必要はなく、ただただ紫園さんと藤井さんの魂の演奏の素晴らしさを感じてもらえれば良いのですが、中には「音も素晴らしい」という感想もあるようで、光栄に思います。
僕なりにいろいろな気持ちを込めて作り上げたサウンドなので、少しでも何かを感じ取ってもらえれば嬉しいです。

「Be Still, My Soul、安かれわが心よ」

一人でも多くの方に聴いてもらい、大切な一枚となることを願いつつ。