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このページでは音楽制作エンジニア、葛巻善郎日々の出来事をつづります。

THE BEATLES 09.09.09

歴史的なビートルズ リマスターCDの発売から2週間が過ぎました。 発売初日は0時から大手レコード・ショップで売り出したり、朝の TV ニュースで取り上げられたりと、それなりの騒がれ方でしたが、あまり僕の周りでは大きな騒動になっていないような気もします。
しかし、今回のリマスターCD全体の売り上げが早くも100万枚も超すなど久々の大ヒット、関連書籍もたくさん発売され、それなりの社会現象にはなっているのだと思います。
アマゾンのレビューや僕がたまに見るサイト「紙ジャケ掲示板」などにおいてもこのリマスターCDは賛否両論、ちょっと意外だったのは「リマスターされている実感がない」「今までの87年CDとの差がわからない」という意見が多いことです。 これらの意見を述べている方はもしかしたらリマスターとリミックスをごっちゃにしているのかもしれません。 また、最近乱発しているリマスターCDの影響で、リマスター = 劇的に音が良くなっている、と解釈しているのかもしれません。
そもそもマスタリングとはなんなのか、そしてリマスターとマスタリングはどう違うのか、きちんと説明できる人はほとんどいないと思います。 そんな中でのこのビートルズの最新リマスター盤は、人々にマスタリングの意味を初めて喚起させ、同時に結論をも出しているような気がします。

新しいコンプ2

新しいトイレ

9月

SHOES

SPARTA - Naked

新しいコンプ1

The World of DALALA

8月

中世バロック・サウンドと英国ロックの融合

新しいプラグイン

Rhythmatrix

合宿レコーディング

〜私は命をうたいたい〜

7月

ダンスは止まらない

いろいろな書籍にも載っていますが、専門書として Sound & Recording Magazine 最新号(写真下 リットーミュージック) に載っているガイ・マッセイさん (アビー・ロードのエンジニアであり今回のプロジェクトの中心人物) のインタビューが興味深いです。 今回のリマスターは1960年代にスタジオで聴いていた音を再現するのが目的である、これはまさに僕がリマスタリングをする時のポリシーとまったく同じなので、なんだか嬉しくなりました。 その他、リマスタリング作業は 24bit, 192kHz で行ったこと、iPod などの圧縮音源用にはマスタリングしていないこと、など面白い話が満載です。
また、ガイさんがマスタリング専門のエンジニアではなく、レコーディング・エンジニアであるということも、僕を大いに励ましてくれました。

蛇足ながら、この号の News コーナーに、僕がマスタリングをした KENSO 「SPARTA - Naked」の記事が載っています。

続いてストレンジ・デイズ最新号 (写真下)、なんとここには僕のインタビューが5ページにもわたり載っています。 ストレンジ・デイズ・レコードの紙ジャケCDのリマスタリングを僕がほとんど手がけている縁で、編集長 岩本さんが声をかけてくれました。 この取材を受けるにあたり、一般発売日である9月9日よりも2週間ほど早く、抜粋盤ではありますが EMI さんから貸し出されたCDを聴くことができました。 僕がこのCDを聴いた上での感想や、マスタリング・リマスタリングについていろいろと述べているのですが、概ねガイ・マッセイさんのコメントと同じ解釈の部分が多く、やはりホッとしているところです。
残念ながら僕の名前の漢字がおもいっきり間違って印刷されてしまってますが、出来上がってしまったものですからもう仕方ないですね (>_<)
どちらの本もとても面白い内容ですから、興味のある方はぜひ読んでみてはいかがでしょうか。

さて、肝心の音に関する僕のコメントですが、まず一聴して「これは素晴らしい!」と思いました。 おそらく当時のスタジオで聴いていたであろう本来の音、ノイズがほとんど感じられずクリアで自然なサウンドはまさに最高、偉そうなコメントで恐縮ですが、もし僕がこのプロジェクトを手がけたとしてもまったく同じサウンドになるだろう、というようなサウンドです。 EQ やリミッターでの音作りをほとんどしていないので、「だったらアナログ盤を聴けば良いじゃないか」などという意見も見受けますが、アナログ盤の音は外周と内周でだいぶ違うのです。 それにレコード盤をトレースする時のノイズ、そして時が経つと共に増えていくキズを針が拾うノイズ、これらは時に暖かいと形容されますが、アーチストが意図した音ではないのです。 なので、派手な音になっていないからこのマスタリングはイマイチだ、とか薄っぺらい音だ、などという意見もあるようですが、この音こそが本来の音であり、長年聴いてきたノイズの呪縛からも逃れた本当の音なのです。 また、今回のリマスター作業においては必要最小限のリミッティングしか行われていないので、音圧・音量が小さい、というか大きくないのですが、このリミッティングが本当に絶妙で、これぞまさに当時の音と言って良いと思います。
87年CDはマスタリングしたというよりデジタル変換しただけの音で、しかも当時のデジタル変換の技術よりも今は格段に進歩しているので、奥行き感などまったく違いますし、クリアな音になったことで4人の演奏が手に取るようにわかる、本当に素晴らしいリマスタリングです。 もうこれからはこのリマスター盤を聴けば良いのです。

今回のプロジェクトには4年かかったそうです。 全13枚のアルバムと編集盤、それにステレオ・ミックスとモノ・ミックスがあるので、全てを合わせた曲数で考えると、この4年という時間はそんなに長くないような気がします。 各インタビューでもガイさんが語っているように、これはビートルズのアナログ・マスターの保管状態が良かったためなのでしょう。 それにしても、このリマスタリング作業、いったいどのようにして行っていたのか、技術的なことはともかく、その場にほんの一瞬でも居合わせることができたらな、と思わずにはいられません。